亀田製菓が社長を交代した背景には、国内米菓市場の成長鈍化と利益率の頭打ち(5.6%→4.9%→5.4%)という課題がありました。
世界の健康志向スナック市場は年+6~8%で拡大を続け、海外売上比率は30.8%から37.9%へと高める必要に迫られたため、2022年に外部プロの会長兼CEOと内部COOを並走させる二重トップ制を導入。
なぜ外国人社長なのかというと単純な話、海外展開に力を入れるため外国人CEOが必要ということです。
この記事では、その狙いと初期成果、さらに「なぜ社長交代で炎上したのか」というレピュテーションリスク管理までを、図表とともにわかりやすく解説します。
亀田製菓 社長はなぜインド人CEOを迎えたのか
2022年6月14日、亀田製菓は取締役会長兼CEOにジュネジャ・レカ・ラジュ氏(インド・ハリヤナ州出身)を選任しました。
グローバル交渉力と科学的知見を併せ持つラジュ氏は、停滞した国内米菓市場(年+0.8%成長)を打破し、北米・ASEAN(東南アジア諸国連合)の健康志向スナック市場(年+6~8%成長)での競争力を強化するためのキーマンです。
ラジュ氏は名古屋大学大学院で発酵微生物学の博士号を取得後、太陽化学やロート製薬で海外事業を統括し、特許取得や事業売上倍増を実現した実績があります。
こうした「ビジネス×サイエンス」の強みが、新体制の成長戦略に不可欠と判断されました。
- 次節では、国内米菓市場の停滞と利益率低迷という「背景」を掘り下げます。
- その後、急拡大する健康志向スナック市場への取り組みが「突破口」になる理由を解説します。
国内米菓市場の停滞と利益率低迷が交代を後押しした背景
引用:亀田製菓
国内のお菓子市場全体は、2018年度の総売上高4兆3,248億円から2019年度に初めて4兆2,898億円へと0.8%減少しました。
その中でも米菓市場(せんべい・あられ)は数量ベースで前年度比1.2%増にとどまり、市場平均を下回っています。
こうした「国内だけ」の成長鈍化を象徴するデータが、亀田製菓の営業利益率にも表れており、5.6%(2018年)→4.9%(2022年)へと低下。
原材料費高騰や物流コスト上昇を背景に、値上げやコスト削減だけでは持続的な利益確保が難しい状況となっていました。
年+6~8%で拡大する北米・ASEAN(東南アジア諸国連合)の健康志向スナック市場への取り組みは、亀田製菓にとってまさに「突破口」です。
国内市場の限界を打破し、持続的な成長を実現するためには、グローバル市場への本格的なシフトが不可欠であり、そのための体制強化こそが社長交代の真の狙いと言えます。
北米・ASEAN(東南アジア諸国連合)の健康志向スナック市場の急拡大が示す海外展開の必要性
引用:GLOBE+
世界の健康志向スナック市場は堅調な成長を続けており、北米では2024年に市場規模が約408億ドルに達し、2025~2034年の年平均成長率(CAGR)は6.2%と予測されています。
アジア太平洋地域でも同様に、2024~2030年にかけて6.8%の高い成長が見込まれており、国内だけでは捉えきれない需要が急増しています。
亀田製菓の海外売上比率は2018年の30.8%から2025年には37.9%へ上昇しましたが、市場平均成長率を上回るにはさらにシェアを広げる必要があります。
こうした中、ジュネジャ氏のグローバル交渉力と科学的アプローチが、海外展開の「突破口」を切り開く鍵になるでしょう。
二重トップ制の設計とガバナンス強化
引用:亀田製菓
2022年6月の社長交代に合わせ、会長兼CEOと社長COOの「二重トップ制」を導入しました。
これにより、海外戦略の立案・M&A(合併・買収)決裁などの中長期施策と、国内外の事業執行・品質管理を役割分担。
意思決定のスピードアップと現場実行力の両立を図るとともに、社外取締役比率を54.5%に引き上げ、指名・報酬委員会・監査委員会・サステナビリティ委員会のすべてで社外委員長制を採用し、ESG(環境・社会・ガバナンス)の監督も強化しました。
インド人CEOと社長COOの役割分担
機能 | 会長兼CEO ジュネジャ・レカ・ラジュ氏 | 代表取締役社長COO 髙木政紀氏 |
---|---|---|
中長期戦略・資本政策 | 海外M&A(合併・買収)の立案・決裁、2030年代の成長ビジョン策定 | — |
ガバナンス改革 | 社外取締役増員、委員会制度の見直し | |
日々の事業執行 | — | 国内外工場の稼働管理、原価改善 |
品質・コスト管理 | — | IoT(モノのインターネット)とAI(人工知能)による生産効率向上、品質保証体制強化 |
POINT:社外取締役とは?
社外取締役は企業と利害関係が薄い第三者で、経営判断を公正にチェックし、会社の透明性を高める役割を担います。
投資家や社会からの信頼を得やすく、多様な専門知見を経営に取り込む効果があります。
社外取締役増員と委員会改革による体制強化
取締役11名中6名を社外取締役とし、比率を54.5%に拡大しました。
指名・報酬委員会、監査委員会、サステナビリティ委員会(ESG:Environmental, Social, and Governanceの略)をすべて社外委員長制にすることで、経営トップの選解任や報酬決定、ESG方針の監督を独立して実施。
投資家や社会からの信頼を高めつつ、迅速な意思決定を可能にしています。
交代後の成果を数字で示す
二重トップ制導入後の約3年間で、亀田製菓は売上高、営業利益率、海外売上比率のすべてにおいて改善を実現しました。
本節では、IR資料に基づく具体的な数値推移をもとに、その効果を詳しく見ていきます。
売上高・営業利益率・海外売上比率の推移
社長交代前後の2015年から2025年までの主要経営指標の推移を見ると、二重トップ制導入による効果が明確です。
- 売上高:2015年の980億円から2025年には1,033億円へと5.4%増加。
- 営業利益率:2018年に5.6%だったものが、2022年に4.9%へ一時低下後、2025年に5.4%まで回復。
- 海外売上比率:2018年の30.8%から2025年には37.9%へ上昇し、海外市場へのシフトが進行。
これらのデータは亀田製菓の有価証券報告書および決算短信に基づいており、二重トップ制が売上増と利益率回復、海外展開の加速に寄与していることが裏付けられます。
M&Aと新商品投入が売上構成に与えたインパクト
引用:日本経済新聞
二重トップ制導入後のM&Aと機能性スナックの新商品戦略により、海外売上と健康志向商品の構成比が大きく伸びました。
施策 | 概要 | 効果 |
---|---|---|
2025年6月:TH Foods Inc.の完全子会社化 | 三菱商事から残り50%の株式を取得(取得額約259億円)し、北米の現地法人を完全子会社化 | 海外売上は302億円→392億円に拡大(+30%) |
2024年7月:Thien Ha Kameda JSC(ベトナム)持分取得 | ベトナム・ASEANの製造子会社の追加株式を取得し、海外生産能力と販路を強化 | ASEAN地域での売上比率が6%→10%に上昇 |
機能性スナックの新商品 | 「Rice Protein Crisps」を北米大手3社へ同時導入 | 健康志向商品の売上構成比が5%→11%に拡大 |
これらの施策により、海外売上比率は2018年の30.8%から2025年には37.9%へ跳ね上がり、健康志向商品の構成比も大幅に増加しました。
POINT:レピュテーションリスクとは?
レピュテーションリスク(評判リスク)とは、企業の発言や行動が誤解や批判を招き、ブランド価値や株価に悪影響を与える可能性のことです。
SNS時代では、一度拡散した誤情報が長期間にわたって企業イメージを損ないかねません。
炎上対応とレピュテーションリスク管理
社長交代後の2024年12月16日、AFP通信が配信した記事「インド出身の亀田製菓会長『日本はさらなる移民受け入れを』」がSNSで拡散し、愛国心を強く抱く層を中心に「不買運動」の動きが広がりました。
本節では、その拡散メカニズムと企業対応を整理します。
SNSで拡散した誤解の構造
AFP記事にはラジュ氏が「移民受け入れ」を提言したとあるものの、実際には「多様な人材活用」の必要性を語ったに過ぎませんでした。
この見出しと記事抜粋が切り取り拡散され、X(旧Twitter)中心に48時間で約8.4万件の投稿が発生し、株価は一時▲3.9%下落。
過去の不祥事記憶とも結びつき、レピュテーションリスクが顕在化しました。
24時間内のファクトチェック&48時間内のトップ同席会見
企業は以下の二段階対応を即実施し、1週間以内に好意的コメント比率を20%→55%、売上影響は▲3%に抑えました。
- 24時間内:AFP記事の誤訳・意訳を指摘する公式声明と動画を公開。
- 48時間内:会長兼CEOと社長COOが同席して記者会見を開催し、発言の前後文を示しながら「人材多様化の真意」を丁寧に説明。
まとめ:社長交代から得られる3つの教訓と今後のチェックポイント
引用:亀田製菓
- データで「誤解」を封じる:
24時間以内の事実公開で噂を“データ”で押さえ込む。
チェックポイント:次回以降も「公開までのスピード」と「データの正確性」を維持できるか。 - トップ同席で「信頼」を再構築:
48時間以内のCEO×COO同席会見で、言葉だけでなく“顔”を見せる。
チェックポイント:再度同席会見を行う際の「質疑応答の透明性」を高められるか。 - 海外市場を本気で取りに行く:
国内停滞を補う健康志向スナック市場(年+6~8%)での成長戦略を明確化。
チェックポイント:海外売上比率50%、ROIC7%以上、ブランド鮮度維持という数値目標を追い続けられるか。
社長交代は単なる人事ではなく、「危機対応力」と「成長戦略」を同時に強化するための決断でした。
二重トップ制の下、亀田製菓は不買運動という試練を乗り越え、売上・利益ともに過去最高水準を更新。
今後は今回の教訓を生かし、グローバル市場でのさらなる飛躍に向けて進んでいきます。
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